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W杯「日本のジャイキリ」はデータ分析の賜物? Jリーグも取り込んだ「世界の潮流」とは |ビジネス+IT


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FIFAワールドカップ2022カタール大会(W杯2022カタール大会)はアルゼンチン対フランスという、スターをそろえた優勝経験ある強豪国同士による「史上最高」と称された決勝戦が印象的だった。また、前回ファイナリストのクロアチア3位入賞など“定番の千両役者”で彩られた大会だったと言える。しかし、これら以上にカタール大会としてのインパクトを残したのは、ダークホースによる番狂わせの大物喰い「ジャイアントキリング(ジャイキリ)」だ。なぜ数多くの「ジャイキリ」を残す大会になったのだろうか?


一般社団法人SPACETIDE共同創設者・理事兼COO。宇宙ビジネス分野やテック系ベンチャーによるオープン・イノベーションを主領域とした事業支援やビジネス・アクセラレーション、産業政策提言等の活動に従事。ライフワークはサッカー観戦。FIFAワールドカップを2002年以降6大会連続で現地観戦している他、スポーツビジネスにも造詣が深い。東京大学スポーツマネジメントスクール3期生(2005年修了)、元・鎌倉インターナショナルFC(神奈川県1部リーグ)インターナショナルフェロー、東京大学理学部卒(2001年、地球惑星物理)、同大学院理学系研究科修了(2003年、地球惑星科学)、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)MPP(2013年、公共政策修士)。野村総合研究所で経営コンサルタントとして官民戦略立案に従事(2003-2019)。内閣府「みちびきエバンジェリスト」等、政府委員を歴任。


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W杯「日本のジャイキリ」はデータ分析の賜物? Jリーグも取り込んだ「世界の潮流」とは

(PA Images/アフロ)


W杯2022カタール大会で目立った「ジャイキリ」

 前回記事 の通り、FIFAは2020年、来るカタール大会に向けてthe Vision 2020-2023を発表、「フットボールの真のグローバル化」を目標とする“new FIFA”の11個のゴールを掲げた。

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サッカーを真にグローバルにするための11の目標

(出典:FIFA THE VISION 2020-2023 報道発表)


 そのうちGoal 6「Increase global competitiveness(グローバルな競争力の増強)」において、FIFAは「世界各地域において地域間の競技力の格差が、どんどんと広がり続けている」状況を指摘。各大陸から合計50カ国以上の代表チームと、50以上のクラブが、トップレベルで競い合える環境の構築をゴールに掲げ、さまざまな改革を推進してきた。

 アルゼンチンやフランス、ブラジル、ドイツ、スペインなど、W杯優勝経験ある8カ国はすべて欧州または南米の国で、それに続く層も欧州勢で占められる(オランダ、クロアチア、ベルギーなど)。これらの国はW杯の「いつもの顔ぶれ」だ。実際、W杯2022カタール大会では、出場した830人の選手のうち602人(72.5%)が欧州のクラブでプレーしている。4年ごとに「欧州一極集中」は増す一方だ。

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W杯2022カタール大会では、出場した830人の選手のうち602人(72.5%)が欧州のクラブでプレーしている


 FIFAは、インファンティーノ会長が掲げる「フットボールの真のグローバル化」のため、この極度に固定化された序列に風穴を開け、フットボールの地政学を欧州・南米以外の地域とバランスさせることに努めてきた。

 次回2026年大会から出場枠を従来の32から48に増やし、特にアジアとアフリカに増分を多く振り分けるのは、その最もわかりやすい施策の一例だろう。ほかにもFIFAは競技力の低い地域における教育やトレーニング支援を行うなどの施策を展開している。

 そしてこのW杯2022カタール大会では、アフリカ勢初のベスト4進出を果たし世界に衝撃を与えたモロッコ代表の大躍進や、アルゼンチンに勝利したサウジアラビア、日本がドイツとスペインを撃破し、結果的に日本、韓国、オーストラリアの3カ国が16強に進出するなどアジア勢が活躍した。

 これらの結果は、FIFAにとっても喜ばしかったのは間違いない。筆者も訪れたドーハ現地では、イスラムやアジアの国々の躍進を称える声が、街の至るところで飛び交っていた。ダークホースによるジャイアントキリング(ジャイキリ)が、人々の記憶と記録に鮮烈に残る大会となった。

ジャイキリの影の仕掛人「データとスマホ」

 選手個々の力量に差がある強国と戦う場合、弱者に必要なのはフェアなジャッジと、知力、つまり十分に練られた戦略・戦術と、その実践だ。the Vision 2020-2023のGoal 9「Harness technology in football(フットボールにおけるテクノロジー活用)」で掲げられた5つのフットボール・テックは、その挑戦を支える強力なサポート基盤となる。

  1. 半自動オフサイド判定技術
  2. ビデオアシスタントレフェリー(VAR)
  3. FIFAプレイヤーアプリ
  4. ゴールラインテクノロジー(GLT)
  5. フットボールデータエコシステム

 1~3の半自動オフサイド判定やVAR、GLTの意義は、既に詳説した通りだ。試合のフェアな進行を促し、強豪国の権威やパフォーマンスに判定が影響を受けたり、自身の好プレーや相手の悪質なプレーが見逃されてしまったりすることを防ぐ。純粋な競技性で勝負できるようになった。

 一方「4. フットボールデータエコシステム」「5. FIFAプレイヤーアプリ」は、弱者が勝つための知を得るためのツールだ。平たく言えば、「データとスマホ」。これが今大会のジャイアントキリングを裏で支えた、影の仕掛人だと筆者は見ている。本稿ではまず前者の「データ」について論じていく。

ゲームの潮目を可視化するFDEとは?

 ジャイアントキリングを果たした国で多く見られたのが、適時適切なタイミングで高い位置からプレッシングをかけ、一気呵成に相手に圧力をかける戦術だ。その実践には選手の豊富な運動量(走るスピードと走行量)が生命線となる。冬の中東の過ごしやすい気候という地理的条件に加えて、今大会から選手交代が最大5人(延長戦になれば6人)と増加されたことが、これを後押しした。

 日本代表による対ドイツや対スペインのジャイアントキリングは、この利点を最もうまく活用した好例だ。ここぞというタイミングで必要なポジションに適切な選手を次々と送り込み、インテンシティ(強度)を落とさず走り続け、相手を圧倒した。

 他方このような戦い方は、ハイリスクな一発勝負でもある。エンジンをかける時間と場所を誤れば、“ガス欠”になったところを強者に一気にやられてしまう。試合前の準備もさることながら、時々刻々変わる戦況のデータ分析を踏まえた判断が不可欠だ。

 今大会から導入された「フットボールデータエコシステム(FDE)」は、このような戦術を取るチームにゲームの“潮目”を伝え、“狙いどころ”を見極めやすくするツールだ。

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フットボールデータエコシステム(FDE)の一例


 FIFAは4年前のロシア大会で電子パフォーマンス&トラッキングシステム(Electronic Performance and Tracking Systems:EPTS)を導入し、参加各国が試合中に持ち込むタブレット端末へリアルタイムでのデータ配信を行った。FDEは、EPTSの後継版として進化した、データの「収集」「解析」「提供」の三要素からなるシステムだ。

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FDEとは、イベントデータと位置データ、EFI(Enhanced Football Intelligence)、FDP(Football Data Platform)を分析するためのデータ基盤である

(FIFAプレイヤーアプリの正式名称は「FIFA Player App」、「FIFA+」はアプリ名称)

(出典:筆者作成)



【次ページ】Jリーグの「データ活用」が「ジャイキリ」につながった?









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