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アバターと相互運用性:水野祐が考える新しい社会契約〔あるいはそれに代わる何か〕Vol.11 | WIRED.jp

メタバースはその定義すら曖昧で、それがどのようなものになるのか、まだ誰にもわかっていない。ただ、人々がアバターを介して交流し、仕事や取引など経済活動を含めたさまざまな活動を行なう没入型の3D仮想空間が今後、社会的・経済的に重要性を増すこと、そして、そのような(おそらく複数の)仮想空間に対する人々のアクセシビリティやポータビリティを確保するために「相互運用性(Interoperability)」が重要になるという点についてはほとんど見解が一致している。

来たるメタバースに近似またはすでにその一部を実現していると考えられている『Roblox』『The Sandbox』などのオンラインゲームや「VRChat」等のVRプラットフォームでは、ユーザー自身がほかのユーザーに対してコンテンツを提供できるのみならず、プラットフォームが提供する開発ツール・環境を前提として、仮想空間をも提供できることを特徴としている。例えば、Robloxは、「ゲームや体験がプレイヤーによりプレイヤーのためにつくられるソーシャルプラットフォーム」であり、ユーザー自身が空間やコンテンツをホスティングしている。このようなコンポーザビリティはこれらのサービスにおけるユーザーの熱狂に寄与しているが、異なるプラットフォーム間を同一のアバターで自由に行き来できるわけではない。メタバースが単に逃避や娯楽のための仮想空間ではなく、現実世界の一部を代替するか、同等の社会性を有する空間へと変容するには、異なるプラットフォームを跨いで利用できるアカウント、アバター、3Dアセット等が必要になってくる。

すでに相互運用性は、データ共有、AIの設計、巨大で複雑な行政システムの開発等、情報化社会のあらゆる場面において欠かせない思想になっている。例えば、EUは、公共サービスの構築における相互運用性を確保するためのフレームワーク「EIF」を定めるほか、「デジタル市場法(DMA)」を制定し、一定のクラウド事業者に対してデータ共有の相互運用性を確保する仕組みを設けることを義務付けている。このような民間事業者への踏み込んだ政策は、米国主導のプラットフォーマーに対する規制により自由競争を促進するという競争法的な観点と、市民が海外に依存せず自立したデジタル基盤を確保するためのデジタル主権の観点から正当化されている。

2022年6月に創設された、オープンで包括的なメタバースのための国際的な標準化に向けたフォーラム「Metaverse Standards Forum」には、Meta、マイクロソフト、エピックゲームズなど150社以上がすでに参加している。このフォーラムには、日本からSIEのほか、アバターの標準化ファイルフォーマット「VRM」を普及促進するVRMコンソーシアムも参加している。3Dモデルは改変可能性が欠如すると、利用されず価値が低減する、というのが2D時代との大きな価値転換であり、改変可能な高品質の3Dモデルが無償で大量に公開されている環境がメタバース時代における日本の優位性だと指摘する声もある。VRMはモデルデータにCCライセンスを選択でき、改変可能性を確保するのみならず、当該データを扱うことができる人の範囲を限定したり、過度に性的な表現や暴力表現に利用しない等、アバターの「人格」に配慮したライセンスを設定することができる。VRMは「ライセンスから文化を誘導する」という思想により設計されているが、一方で、アバターという切り口からメタバースの相互運用性を確保する試みとも捉えることができる。日本の事業者がメタバースの世界的なプラットフォームのデファクトスタンダードになる可能性は低いという地政学的な諦念からすれば、アバターの標準化やアセットの豊富化を日本の文脈で押し進めることはおそらく戦略として正しい。ニール・スティーブンスン『スノウ・クラッシュ』において「メタバース」という言葉とともに「アバター」という言葉も初出していたことは後に意外と重要な意味をもつのかもしれない。

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