日本でのゲーム

なぜ日本は,現実にゲーム要素をもっと取り入れないのか? 岸本好弘氏が日本のゲーミフィケーション事情を語った講演をレポート


 2022年8月25日から27日にかけて,「第10回 国際日本ゲーム研究カンファレンス−Replaying Japan 2022」が京都及びオンラインで開催された。

 このカンファレンスは,日本のゲーム文化を研究しているさまざまな分野の国内外の研究者,学生,ゲームクリエイターが一堂に集い,発表と交流が行われるものだ。本稿では,日本ゲーミフィケーション協会 代表 岸本好弘氏による基調講演「Jゲーミフィケーション 日本の現状 -なぜゲーム大国日本は,現実にゲーム要素をもっと取り入れないのか?」をレポートする。なお“Jゲーミフィケーション”とは岸本氏の造語であり,“日本人の好きなゲーミフィケーション”という意味である。

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 セッションの冒頭では,岸本氏が自身の経歴を語った。岸本氏は,大学でプログラミングを学んだあと,ナムコとコーエー(いずれも当時)でゲームの開発を手がけ,50タイトル以上に携わったのち,2012年より7年間,東京工科大学メディア学部などで,ゲーミフィケーションの研究と実践を行った。
 そして2019年に日本ゲーミフィケーション協会を設立し,その代表としてゲーミフィケーションデザイナーの育成やゲーミフィケーション活用事例の収集を行いながら現在に至っている。

 そんな自身の経歴について,岸本氏は「私は40年間,“楽しみながら継続できる仕組み”を作る専門家としてキャリアを形成してきた」とし,「最初の29年間は,ゲームのために,ゲームデザインを考えた。そのあとの11年間は,ゲーム以外のためにゲーミフィケーションデザインを考えてきた」と語った。

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 岸本氏が大学の授業にゲーミフィケーションを活用し始めたのは,“ゲームみたいな楽しい授業”を実践しようと考えたのがきっかけだったという。当時は,スタンプカードやパーティーグッズのピンポンブー,学生自身が授業の難度を選べるといったゲームの仕掛けなどを授業で使っていたそうだ。
 ゲームは“楽しい”ことそのものが目的なのに対して,岸本氏の試みは学生の能動的な授業への参加を促す目的で,“楽しい”を手段として使ったのである。

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 当時はゲーミフィケーションという言葉を知らなかったという岸本氏だが,2012年に同僚の三上浩司教授から自身の試みが,当時アメリカで注目されていたゲーミフィケーションという仕掛けと同じだと聞かされる。その後,岸本氏は次世代ゲーミフィケーション研究室(NGF)を作り,学生とともにゲーミフィケーションの研究を行った。

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 同年,岸本氏は三上教授とともに,授業へのゲーミフィケーションの導入に関する論文「ゲーミフィケーションを活用した大学教育の可能性について」を日本デジタルゲーム学会にて発表した。
 また200〜250名の多人数授業にて,後述するゲーミフィケーションデザイン6要素を活用したところ,学生の“授業への楽しさをアップ”と“授業への集中度をアップ“させることができた。

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 次に“Jゲーミフィケーション”の歴史が示された。2010年にアメリカで誕生したゲーミフィケーションが日本でブームになったのは,2011年のこと。Webサービスなどでゲーミフィケーションが活用されたほか,「REALITY IS BROKEN」や「GAMIFICATION」などの関連書籍が邦訳され,出版された。

 しかし,2013年に日本におけるゲーミフィケーションブームは幻滅期に入ってしまう。これに関して岸本氏は,あまり良い事例がなかったことを指摘し,「日本人はゲーム好きなので,ゲーミフィケーションを使ったサービスなら簡単に作れると思ったのかもしれないが,そうはならなかった」とコメント。なお岸本氏自身は,ゲーミフィケーションサービスを作るのは,ゲームを作るのと同じくらい難しいと考えているそうだ。

 2014年には,ゲーミフィケーションがモチベーションを上げる方法として再評価され,eラーニングやリアルな教室で活用されるようになる。岸本氏の提唱する“Jゲーミフィケーション”は,これ以降のものを指す。

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 岸本氏は,ゲーミフィケーションを「身の回りのことにゲーム要素を入れて,人を楽しくやる気にさせる」と定義している。身の回りのことには仕事,勉強,家事,人生などが入る。特徴は,「楽しいモチベーションメソッド」「若い世代との親和性が高い」ということだ。ただ,必ずしも海外で使われるゲーミフィケーションと同じ定義になっているかは不明とのことで,「Jゲーミフィケーションならではの定義かもしれない」と話していた。

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 日本人の好きなJゲーミフィケーションの代表例も2つ示された。1つはスタンプカードで,ゴールに到達して賞品がプレゼントされるのは,もちろんうれしいが,スタンプが1つ1つ押されてゴールに近づいていくのを見ると,日本人はワクワクすることが紹介された。
 もう1つはガラポン抽選機だ。岸本氏は海外の聴講者に向けて,「抽選機の中には1等,2等,3等などの色違いの玉が入っていて,ガラガラ回転させてその玉を自分で出すことができる」と説明していた。

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 それらのJゲーミフィケーションは,日本人の好きなゲームの要素に似ているという。たとえばスタンプカードは,日本人が好きなJRPGのレベル上げとよく似ているとのこと。
 JRPGでは決められた場所でモンスターを倒すと経験値を得られ,経験値が一定数を超えるとレベルアップして能力値がアップする。一方スタンプカードでは,決められたお店で商品を買うとポイントを得られ,ポイントが一定数を満たすとプレゼントを得られるというわけである。

 またガラポン抽選機は,日本人が好きなスマートフォンゲームのガチャとよく似ている。このシステムは,得られるものをランダムにして,当たった時に脳内のドーパミンを出させるという仕組みである。
 岸本氏は「日本人はこういうシステムが好き」とし,自身の教えた学生が「ガチャのことを考えると,授業のストレスが吹っ飛ぶ」と話していたというエピソードを披露した。

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 続いて,ゲームを面白くする“ゲームデザイン6要素”が紹介された。岸本氏が提唱する6要素は以下の通りだ。

1.能動的な参加
2.達成可能な目標設定
3.称賛の演出
4.即時フィードバック
5.成長の可視化
6.独自性の歓迎

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 岸本氏は,このゲームデザイン6要素を,ゲーム以外の現実世界を面白くする“ゲーミフィケーションデザイン6要素”に転用することを考えたとのこと。実際,上記の大学の授業もゲーミフィケーション6要素を活用して,授業をデザインしたそうだ。

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 岸本氏は,ゲーミフィケーションの身近な活用事例を2つの紹介した。その1つがラジオ体操だ。夏休み中,日本の子どもたちは毎朝公園などで行われるラジオ体操に参加するが,これは「スタンプカードがゲーミフィケーションになっているからだ」と岸本氏は指摘する。参加した日にはスタンプが1つ押され,それが溜まっていくのが可視化されて,やる気になるというわけである。
 岸本氏は「目標達成までを1日ごとのスモールステップにすることで,モチベーションアップを図っている」「スタンプカードを見た親から称賛の演出がある点も重要」とし,「Jゲーミフィケーションのレベル上げと同じ要素」とあらためて説明した。

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 2つめの事例は,岸本氏がお気に入りだという回転寿司チェーン店の事例だ。この店には,食べ終わった寿司の皿を5つ投入すると1回ルーレットが回せて,当たると景品がもらえる仕掛けがある。とくに親子連れに好評で,ルーレットを回したい子どもたちにせがまれた親が5皿になるまで追加で寿司を食べるケースも見られる。岸本氏は「店としては売上アップが期待できる」とし,「Jゲーミフィケーションのガラポン抽選機やガチャと同じ要素」と説明を加えた。

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 日本ゲーミフィケーション協会では,このような日本で活用されているゲーミフィケーションの事例を調査し,優れたものを表彰している。講演では,実際に表彰された3つの事例が挙げられた。

 1つめは,コクヨの「しゅくだいやる気ペン」だ。これは宿題が好きでない子どものための楽しく宿題を行うIoTツールで,鉛筆に取り付けて使うもの。
 子どもが集中して宿題を行うとペンが光を放ち,ペンを動かした量に応じて光の色が変わっていく。そうやって宿題をやっている時間を可視化することにより,子どものやる気が高まるというわけである。
 ペンを動かして溜まったポイントは,スマホアプリに注ぎ込むことが可能で,そのポイント分でスゴロクのコマを進められる。これにより子どもたちが能動的に宿題を消化すること,そして宿題の話題で親子の会話が弾むことが期待できる。

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 2つめは,福祉施設向けゲームシステム「TANO」(関連記事)。このシステムは,高齢者や障がい者などに向けて作られたもので,ユーザーは映し出された画面に合わせて手足を動かすだけでゲームを楽しめる。楽しいから自然にやるようになり,結果として運動ができるようになる。無理やりやらされるのではなく,能動的に楽しくできるところがポイントだ。

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 3つめは,スマホRPG「キズナファンタジア」。これは津波で被害を受けた宮城・石巻をモチーフにしたゲームで,プレイヤーは石巻に似た世界を冒険する。ゲームと現実をGPSでリンクし,現実の場所を訪れたり,土産物を買ったりすることで,ゲームの進行が有利になることもある。すなわちゲームを通して,石巻への観光誘致がなされているというわけである。

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 2022年に公開された,日本のゲーミフィケーション業界カオスマップも紹介された。岸本氏も制作委員の1人として関わったというこのマップには,国内のゲーミフィケーション事業者計206社が13のカテゴリーに分類され掲載されているとのこと。また,このマップが日本のゲーミフィケーション業界を俯瞰する初めての資料であることにも言及がなされた。

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 岸本氏によると,国内のゲーミフィケーション業界全体の市場規模は不明。市場規模は少しずつ大きくなっているようだが,国内ゲーム市場規模の2兆円と比較するとかなり小さいという。
 現状で市場規模が大きいのは,1位から順にDX受託開発,研修教育,学校教育で,今後成長が期待されるのは,1位から順にヘルスケア,リテール,教育(乳幼児/子供向け)と捉えているそうだ。

 講演の最後には,「なぜゲーム大国日本は,現実にゲーム要素をもっと取り入れないのか?」という岸本氏自身の疑問が提示された。岸本氏は,日本ゲーミフィケーション協会が“世界を神ゲーに。”を目標に掲げて活動していることを紹介し,それは「ゲーミフィケーションが広まっていけば,皆が幸せになると思っているから」と説明する。

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 さらに日本の2022年の世界幸福度ランキングが146国中54位と決して高いとは言えないこと,その一方で日本は1人あたりのゲームに使うお金が世界一高いことを指摘し,「ゲームに親しみ,娯楽としても価値を感じているのに,なぜ幸せになるためにゲーム要素を活用しないのか?」と,あらためて疑問を呈した。

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 それらの疑問に対する岸本氏自身の回答は,「日本のゲームやアニメが面白過ぎるから」というもの。岸本氏は「日本人の脳内は,すでに楽しいメタバース。現実がツラければ,ゲームやアニメのメタバースの世界で楽しめる。現実にゲーミフィケーションを活用して楽しくする必要を感じない。私を含め日本のゲーム開発者が面白いゲームを作ったのが原因なのかも」と解説し,「あなたの意見はいかがでしょうか?」と聴講者に問いかけて講演を終えた。

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 講演終了後の質疑応答では,ゲーミフィケーションを学問化するには効果の評価基準が必要であること,SNSにはゲーミフィケーション6要素の即時フィードバックが使われていることなどが,岸本氏より示された。

 また日本ゲーミフィケーション協会では,ゲーミフィケーションを3段階に考えていることも明かされた。
 それによるとレベル1は“歩き出しのゲーミフィケーション”と呼ばれ,対象者に「楽しいから,一度だけやってみよう」と1歩めを促すものだという。次のレベル2は“継続のゲーミフィケーション”で,飽きたり止めたくなったりした対象者に継続を促すもの。そしてレベル3では,対象者が能動的に取り組む割合を徐々に増やしていき,最終的にゲーミフィケーションの力を借りなくとも自分の意志で取り組むようになることを目指すとのことだ。

 ゲームがもたらす幸せは,ドーパミンによる一時的なものだが,ゲーミフィケーションがもたらす幸せはオキシトシンによる継続的,ウェルビーイング的なものではないかという持論も示され,岸本氏は「私が実現したいのは,ゲーミフィケーション的な世界」と語った。

 そして「日本でゲーミフィケーションを広めるには?」という質問には,「一緒に考えましょう」と即答。「今日,海外の皆さんに話をしたのは,日本人が海外の評価をすごく気にするから。私の講演を聞いた皆さんが『Jゲーミフィケーションはグレートだ!』と広めてくれたら,日本での評価も高まるかも」と,冗談半分に話していた。

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