グローバルで累計10億ダウンロードを突破した人気ゲームの「ポケモン GO」で世界規模の社会現象を巻き起こし、任天堂とのピクミンをテーマにした新作も発表。開発・運営を手がける米ナイアンティックは、どんな発想で作品を生み出し、世界中の人々を動かし続けているのか。
同社副社長、川島優志氏が激動の半生を振り返りながら、ナイアンティックや「ポケモン GO」、「イングレス」の舞台裏を語った『世界を変える寄り道 ポケモンGO、ナイアンティックの知られざる物語』が10月に発刊された。
著者の川島氏に、「ポケモン GO」を通してナイアンティックが目指している世界や、「ポケモン GO」が世界中の人々に受け入れられた理由などを聞くシリーズの第4回。今回は11月1日に日本でも配信が開始された「ピクミン ブルーム」の狙いや今後の展開などを聞いた。
(聞き手は日経トップリーダー副編集長 上岡 隆)
日本でも11月1日にリリースされた「ピクミン ブルーム」(写真:©2021 Niantic, Inc., Pikmin and Mii Characters / Artwork / Music ©2021 Nintendo All Rights Reserved)
前回、「ピクミンをテーマにした新しい作品も制作中で、まもなくサービスを開始できそう」とおっしゃっていましたが、11月1日に日本でも配信が開始されました。新作「ピクミン ブルーム」の開発経緯や狙いを教えてください。
川島優志氏(以下、川島氏):「ピクミン ブルーム」は任天堂さんと共同開発したアプリですが、任天堂さんは家族みんなで楽しんだり、遊びながら健康的になれたりするゲームにも力を入れていて、ナイアンティックと目指していることがとても似ていました。ですから以前からずっと、任天堂さんが持つIP(知的財産、キャラクター)を生かしたアプリを作りたいと考えていました。
プロジェクトが立ち上がったのは2018年の春ごろで、任天堂さんと相談しながらピクミンをテーマにしたアプリの開発を進めてきました。手がけているのはサンフランシスコにいた野村達雄がメンバーを集めて日本でつくったナイアンティックの東京スタジオ。「ピクミン ブルーム」は同スタジオ初の作品です。
今年の3月にピクミンをテーマにしたアプリを開発していることを発表しましたが、10月27日(日本時間)、正式にお披露目しました。
川島優志(かわしま・まさし)氏
米Niantic, Inc.副社長。早稲田大学中退後、2000年に渡米。ロサンゼルスでの起業、デザインプロダクション勤務を経て、2007年Google入社。アジア太平洋のウェブデザインチームを統括し、日本人としては世界で初めて「Doodle」(Googleのトップページロゴ)をデザインする。2015年にNiantic, Inc.(ナイアンティック社)の設立と同時に、アジア統括本部長に就任。2019年副社長に。「イングレス」のビジュアルおよびUXデザインを担当したほか、「ポケモン GO」では開発プロジェクトの立ち上げを担当。
発表前日はピクミン誕生からちょうど20周年を迎えた記念すべき日。そんな節目で記念の年にナイアンティックが新たな試みを発表でき、さらには発表映像でピクミンの生みの親である宮本さん(宮本茂:任天堂代表取締役フェロー)が、ジョン(ジョン・ハンケ:米ナイアンティックCEO)と一緒に作品への思いを語ってくれたことは、すごくありがたかったし、うれしかったですね。
©2021 Niantic, Inc., Pikmin and Mii Characters / Artwork / Music Copyright © 2021 Nintendo All Rights Reserved.
ゲームというよりも、ライフログやウォーキングアプリに近い
10月27日に正式発表され、オーストラリアとシンガポールで配信が開始されると、すぐさま「ピクミン GOが出るの?」「日本での配信はいつ?」とSNSで大きな反響がありました。そして11月1日に日本で配信が開始されると、「ピクミン ブルーム」のプレー画像をネットに上げる人が続出しました。
川島:それはピクミンのゲームを遊んだことがあり、ピクミンというキャラクターを愛している人が世界中にいるからこその反響ですよね。ピクミンを知らなくても、その「かわいさ」にやってみたいと思った人も多いと思います。
ピクミンのゲームで遊んだことがある人は、「スマートフォン版はどうなっているんだろう」と気になっていると思いますが、「ピクミン ブルーム」は、これまでのピクミンシリーズとは少し異なります。ゲームのような楽しさはあるものの、きっと多くの方々が想像されるであろう、多くのアクションを必要とするゲームというよりも、ライフログやウォーキングアプリに近いものになっています。そういう意味では、「ゲームとして少し物足りない」と感じる人がいるかもしれません。
ただ、それは意図的にそうしているところがあります。「ピクミン ブルーム」は、「生活に溶け込ませる」ことをすごく大事にして作っているからです。
あえて控えめに、静かな、癒やしの時間を得られるゲームデザインにすることで、毎日、ちょっとした空き時間に、飽きずに使ってもらえるものになっています。
リリースでは、「歩いて増やす、歩いて咲かせる、歩いて残す ~中略~ 毎日の散歩や通勤をピクミンたちとの『楽しいおでかけ』に」とあります。
川島:「ピクミン ブルーム」は、歩くことをより楽しんでもらいたいという目的で作られたアプリです。
繰り返しになりますが、ナイアンティックが目指しているのは、人を外に連れ出して、いろんなところに寄り道して、さまざまな発見をしてもらうことです。それをゲームの力を使って実現しようとしたのが「イングレス」であり、「ポケモン GO」です。
「ピクミン ブルーム」は、「イングレス」や「ポケモン GO」を楽しみながらでも使えるように設計しています。朝起きて「ピクミン ブルーム」に苗をセットして、夜までそのまま忘れていただいても大丈夫です。昼間は授業なり、お仕事なり、「イングレス」なり、「ポケモン GO」なりをお楽しみいただき、夜寝る前に「ピクミン ブルーム」を開けて、1日を振り返れます。
歩くことで育ち、お使いなどもしてくれる
そんな設計なので、ゲームが得意でない方々でも「ピクミン ブルーム」であれば楽しんでもらえると思っています。スマホにインストールして、持ち歩くだけで楽しめる。歩くことで街に花を植えることができる。それも自分だけでなく、周りの人が植えてくれた花も見ることができる。世界中の人と一緒に、街をどんどん花で彩っていくような体験が得られます。
ピクミンは歩くことで育ちますし、お使いなどもしてくれます。AR機能を使ってピクミンと一緒に写真を撮ることもできて、カメラに手のひらをかざすと、ピクミンたちが手のひらに乗ってくれます。それはもう、とてもかわいいですよ(笑)。
1日の終わりには、その日に歩いた「歩数」や歩いた「ルート」、撮影した「写真」も見ることができ、その日の気持ちも残せます。ピクミンと日々一緒に生活をしている感じですね。
© 2021 Niantic, Inc., Pikmin and Mii Characters / Artwork / Music Copyright © 2021 Nintendo All Rights Reserved.
誰かとライフログを見せ合いながら、「この間、ここに行ってね」と話せるわけですね。会話のきっかけにもよさそうです。
川島:はい。ですから、幅広い層の人に使ってもらえるのではないかと思っています。
今、コロナ禍で運動不足と感じている人が増えています。実際、「運動量が足りない」という社会問題も生じています。そんな世の中において「ピクミン ブルーム」を通して歩くことがちょっと楽しくなり、「もう少し歩こうかな」と思ってもらえるとうれしいです。
「ポケモン GO」で世界規模の社会現象を巻き起こし、任天堂とのピクミンをテーマにした新作も発表。開発・運営を手がける米ナイアンティックは、どんな発想で作品を生み出し、世界中の人々を動かし続けているのか。同社副社長、川島優志氏が激動の半生を振り返りながら、「ナイアンティック」や「ポケモン GO」、「イングレス」の舞台裏を語る。
物語を通したテーマは「寄り道」。本書には、世界の見え方が、自分の人生が、大きく変わる「寄り道」の面白さが随所に詰まっている。これからの人生に迷っている人、今まさに重要な決断を迫られている人、これから世界で活躍したいと思っている子供たち――。川島氏のある意味ハチャメチャな人生を知ることで、自分らしい一歩を踏み出せる「勇気」がもらえるに違いない。
続きを読む 2/3
ゲームというよりも、ライフログやウォーキングアプリに近い
歩くことで育ち、お使いなどもしてくれる
この記事はシリーズ「Books」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。