

コーラス・ワールドワイドは、プレイステーション 5/プレイステーション 4/Xbox One/Nintendo Switch/PC用アドベンチャー「A Space For The Unbound 心に咲く花」を、2023年1月19日に発売する。
本作は「日本ゲーム大賞2022」のフューチャー部門において、数々のAAAタイトルと共に同賞に選ばれた唯一のインディーズ作品であり、発売前から多くのゲームプレーヤーの関心を集めてきた。制作を手掛けるのは、インドネシアの気鋭ゲームスタジオMojiken Studioと「コーヒートーク」で一躍有名となったToge Productionsということもあり、2015年に最初のトレーラーが公開されて以来、本作の発売を心待ちにしていた方も多いことだろう。筆者も何を隠そう、「コーヒートーク」のレビューをきっかけに本作に興味を抱いた一人だ。
本稿では、実に7年以上もの年月を掛けて練り上げられたピクセルアート(ドット絵)による色鮮やかな世界観、プレーヤーを飽きさせないゲーム体験、そして個性的な登場人物たちが織り成す青春の物語を中心に、「A Space For The Unbound 心に咲く花」という作品の魅力について語っていきたい。
【「A Space for the Unbound 心に咲く花」日本語トレーラー】
青春の一幕を彩る、ドット絵の「画作り」に脱帽
本作を語っていくうえで最初に目につくのは、丁寧に作り込まれたピクセルアートの表現だろう。正直90年代のインドネシアの田舎町が舞台と言われても、日本からほとんど出たことない筆者などは全くピンと来ない。それでも、ゲームを開始してものの数分で、その美麗な画面に目が釘付けになってしまった。これっぽっちも馴染みがない風景のはずなのに、画面を眺めていると、どこか懐かしさすら覚えてしまうほどに……。
その理由を筆者なりに分析すると、大きく2つあるように思う。まずは、緻密なドット表現によるリアルな画作りだ。木の葉っぱや原っぱの草一つとっても、光の当たり方や影を意識した描き込みがなされており、まるで本物の草木が風にそよいでいるように見えてくるほど。また、美しい青空も目を凝らすと絶妙なグラデーションが施されており、確かな立体感をもって視覚に訴えかけてくる。その画の中で登場人物たちが生き生きと動くため、プレイしている時には、本当に小さな田舎町に自分が入り込んだかのような感触を覚えたほどだ。
次に注目したいのは、繊細な色遣いによる温かな画作りだ。例えば現実世界の青空が広がる町並みにしても、寒色の青だけでは、どうしてもどこか冷たい印象を受けるもの。しかし本作では、その背景に木々や原っぱ(中性色~暖色の緑や黄土色)を多めに取り入れつつ、差し色として住民には暖色系の服を着せることで、画面全体で温かみのある印象を抱かせることに成功していると感じた。
主人公のアトマが入り込む心象世界にしても、黒を基調としつつ星の煌めきが心の宇宙を彩っており、黄色や緑の花の光が暗闇を照らし出している。青春の明るい側面だけでなく、うしろ暗い側面や人の心というデリケートな部分に踏み込む本作だからこそ、時に陰鬱な台詞や表現も避けては通れない。それでもテストプレイで最後まで気持ちが落ち込むことなく、晴れやかな気分でエンディングを迎えられたのは、巧みなシナリオ展開だけでなく、細部にまで拘った温かみのあるドット絵による画面作りのおかげなのでは?と、筆者は素人ながらに思った。
もちろん、そこは本作のBGMを手掛けたMasdito “Ittou” Bachtiar氏による、明るくもどこか寂しく、儚げな音づくりも大いに貢献していることは間違いない。そうした工夫の数々によって、本来は異国情緒あふれる町並みや風景も、どこか見知ったような親近感のある世界へと早変わりする。その世界の中で、大半のプレーヤーは最後まで、この風変わりな青春の物語を心地よく堪能できるはずだ。

様々な要素が計算し尽くされたであろう美しい画面構成と、ませたことを言ってくる子どもの台詞の対比が面白い

荒涼とした河原の画面は、どこか主人公たちの抱える寂しさを思わせる一方で、全体的な印象が暗くなり過ぎないように配色の工夫も見られる

イベントシーンなどは特に色彩の対比が映えており、2Dのドット絵ならではの画の優しさがにじむ

筆者お気に入りの一枚。人の心に入り込む瞬間に、その人物が一瞬だけ花になり、花びらが舞い散る。この白と黒のコントラストがシンプルに美しい
もう戻れないあの瞬間、あの時代をもう一度
筆者はレビュー用に本作を最後までプレイしたが、やり込み要素のコンプリートを目指さないのであれば、大半の方はエンディングまで10時間も掛からずにクリアできるだろう。1本のゲームでクリアまでに50時間とか100時間は遊びたい!という方には少し物足りないかもしれないが、物語が章仕立てでどんどん面白くなるため、個人的には上質な連続ドラマを見ているような感覚で楽しめて丁度よいボリュームだと感じた。強いて言えば、現状やり込み要素の中には章が進むとプレイできなくなるものもあるため、そこは取りこぼした要素の救済措置があってもよかったのではないかとは思った。ただ、クリアまでのプレイ時間がそこまで掛からず、また1回クリアしただけでは気づけない台詞の意図や演出もあるので、そこは2回、3回とじっくりこの世界を味わってほしい、という制作陣の意図もあるのかもしれない。
人の心に入り込むと言っても、本作の主人公アトマは心の中で悪さをすることもなく、悪者を退治することもない。等身大の10代の若者として、ただ人の不安や悩みと向き合いながら、それを取り除く手助けをするだけだ。また、ラヤの様子や世界がおかしくなっても、アトマはラヤを思う一心で、ひたむきに困難に立ち向かい、問題解決に奔走する。その姿を見るにつけ、筆者も大人と子どもの狭間でもがいた10代の頃の自分を思い出し、損得勘定なしに誰かを大切に思うことの尊さに想いを馳せた。何時間もぶっ続けでプレイして楽しむというよりは、毎日すこしずつ、じっくり時間をかけて世界観を味わうようなプレイが似合う本作。多忙な現代だからこそ、青春の輝き、希望や不安を体感できる作品で、あの頃に感じていた瑞々しい心の機微に、再び触れてみては如何だろうか。
なお、本作の日本語翻訳には「コーヒートーク」を翻訳した小川公貴氏が携わっており、同作をプレイしたことがある方は、本作も安心してプレイいただけることだろう。今回のテストプレイでも、同氏の表現力が最後まで素敵な物語を盛り上げる一助となったことを付記しておきたい。

不安が生み出す容赦ない罵倒をものともせず、心の花を咲かせるアトマくん。これは主人公の風格ですわ……

モブ高校生の恋の行方にも注目!? どんだけ筆者を悶死させたいんだ! 油断も隙もないったらありゃしない!

序章の衝撃のラストをはじめ、物語を盛り上げる美麗なイベントシーンにも要注目!

とにかく猫がたくさん登場し、随所で活躍する本作。三度の飯より猫が好きな方は、今すぐプレイ!
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