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サウジに刺さった日本アニメ “日本スタイル”の浸透と熱狂 – Impress Watch

サウジアラビア第二の都市ジェッダ。2021年からはF1グランプリも開催されるようになったが、本来、イスラム教の聖地であるメッカ巡礼への中継地として発達した街だ。

このジェッダは観光やビジネスの中心として都市開発がすっかり進んだドバイと比べると、まだ発展の初期段階にある。とはいえ王室主導で開発された街には名古屋の「100メートル道路」を思わせる片側5車線の広大なバイパス道路が複数貫かれ、ビーチ沿いにはリゾートも開発されていた。

以前は住宅地だったというバイパス沿いは広大な更地となっており、国家予算を投じて全く新しい都市を建築していく予定だという。2年もしないうちに、その街並みは大きく変わっていくことだろう。

このサウジアラビア(サウジ)が親日国であり、日本カルチャーが大好きな国民が多いといった情報は、時折、メディアで伝えられることもあった。それはあくまでも”日本文化が好き”というレベルの話だ。

ところが彼の地で日本アニメをテーマにしたエンターテインメントイベントを取材してみると、単なる日本好きを超えた大きな事業開拓への道があることがわかった。決して社交辞令ではない。なぜなら、実際にビジネスとしての可能性を実感した上で、サウジの政府系企業が投資を始めているからだ。

その背景には、サウジは国を挙げてエンターテインメント産業への投資を行ない、ほぼゼロだったエンターテインメント産業を海外から誘致すると共に、国内でも新しい産業分野として育てようとしていることがある。

世界的な脱炭素化の中にあって、サウジも石油産業に頼った国の運営が難しくなってきている。近年の国家予算は赤字となることも多く、それまでにサウジ国内にはなかった産業を育成することで、国としての形を変えようとしているのだ。英フォーブスによるムハンマド王太子へのインタビューによると、エンターテインメント産業育成の投資額だけでも(投資期間は明確になっていないが)640億ドル(約8兆6,000億円)にも上る。

そしてサウジのエンターテインメント投資において、重要なコンテンツジャンルの一つとなっているのが日本アニメとそこから派生する音楽、ファッションなのだ。

ジェッダシーズン(撮影:本田雅一)

予想以上の好調さで常設アニメテーマパーク計画も浮上

もちろん、640億ドルの予算が全て日本に向いているわけではない。しかしよくある”日本スゴイ”という自己承認欲求からの贔屓目な話ではなく、日本アニメに対するサウジの目線は熱い。

サウジのエンターテインメント産業開拓は、サウジ国内のイベント、エンタメ企業を通じて海外のイベンターや代理店に業務発注することで行なわれている。世界中からの“本物のエンタメコンテンツ”をかき集め、サウジ国内でのイベントや公演実施などを重ねることで業界ノウハウを蓄積し、コンテンツオーナー、アーティストなどとのネットワークを築くためだ。

コンテンツ制作に関しても、海外アーティストに依頼しての制作を行ないつつ、海外コンテンツオーナーと(サウジ)国内アーティストとの共同制作プロジェクトにも投資して、将来のサウジ内製コンテンツ育成に繋げることが目的だ。

そうした事業の中でも大きなイベントとなっているのが、首都リヤドで行なわれるリヤドシーズンと、第二都市のジェッダで開催されるジェッダシーズン。どちらも“シーズン”と謳われているように、期間限定のスクラッチ&ビルドなイベントだ。

筆者はこのイベントを取材するため、サウジへと向かったが、その規模の大きさと日本コンテンツへのリスペクトには、誇大な表現ではなく本当に驚かされた。

ジェッダシーズンをはじめとするサウジのエンターテインメント事業を請負っている政府系イベント運営企業「セラ」でテーマパーク&リゾートプロジェクトの責任者を務めるライアン・ザハール・アラブ氏は「日本アニメに対するサウジ国民の関心の高さに私自身も驚いている。まだ議論を始めたところだが、ジェッダシーズンでの好評をえて期間限定のイベントパークではなく、常設テーマパークとして”日本アニメ”のテーマパークを建設するプロジェクトを起案した」と話す。

関連商品にまで広がるビジネス

ジェッダシーズンは街全体をテーマパークにするような大きなイベントで、2019年が初開催。リヤドシーズンとともに、サウジ政府による”エンタメ開放”の象徴する規模を誇る。2022年は5月下旬から60日間にわたって開催され、街のいたるところに60種のイベント会場が設置された。

エンタメ開放までは“公共の場での音楽”が存在しなかった国にも関わらず、海外からアーティストを招聘。サウジ国内アーティストとの共演なども含め、20本ものコンサートイベントを実施し、4種類の国際展示会も行なわれた。

サウジアラビア国内の参加者がほとんどだが、中東各国からの来訪者もあり、のべ600万人がジェッダを訪問したという。

日本からはmiwa、Miyavi、Aimer、藍井エイルなどがサウジでライブパフォーマンスを披露。筆者が訪問した際には日本アーティストのコンサートはなかったが、いずれもチケットは即時ソールドアウトとのことで、日本アーティストへの注目の高さを感じさせたが、実は物販でも予想以上の成果を挙げている。

ジェッダシーズンでももっとも大きなイベント会場となっているのが「シティウォーク」という屋外型テーマパーク。この中にはジェッダ中から人気のファーストフードからファインダイニングまでさまざまなレストランやカフェが集められ、海外ブランドのイベントショップ、逆バンジーなどの大型遊具など様々なエリアが配置され、中央の円形広場には高さ27メートル、横幅80メートルに及ぶ巨大LEDスクリーンが設けられ、音楽と映像で人々を楽しませている。

世界中から一流のエンターテインメントが集められる中、実はもっとも多くの人気を集めたのが日本アニメをテーマに各種アトラクション、等身大フィギュアや巨大ジオラマ、アニメ関連商品とサンリオキャラクター商品を販売するショップ、日本食レストランなどを集めた「アニメビレッジ」。

もの珍しさに人が集まるだけではなく、実際に日本よりも高い単価でも商品が飛ぶように売れたのだ。

好調な物販に可能性

リヤドシーズンにも出店したサンリオはサウジの女性、子供たちに大人気で、子育て世代の女性にとっても小さい頃から慣れ親しんだブランド。アニメビレッジでの専門店は入店制限がかかるほどで、サンリオが得意な文房具などの小物グッズだけではなく、バッグやアパレルなどファッション系の売り上げが大きく、ソールドアウトからの再入荷を繰り返した。

中東初出店となるアニメイトは池袋本店と同じフロア面積を確保し、アニメビレッジに参加している作品関連グッズやフィギュアなど2,000種類を展示販売したが、期間初期には早々にソールドアウトしてしまい、こちらも再入荷を繰り返したという。

実はアニメビレッジでの物販は、サウジアラビア政府機関から運営を委託されているセラが製品を買い切っての販売。しかもアニメビレッジの設営は、シティウォークの企画の中ではもっとも遅く、準備期間が短かったことから、すべて空輸した上で在庫リスクを負ったため、日本よりもかなり高価な値付けだった。

実はシティウォークに隣接する高級モールにもアニメ関連商品専門店があったため顔を出してみたが、多くは日本の1.5倍以上の値付け。シティウォークのアニメイトでも、特にフィギュアは2倍以上の値付けだったが、それでも飛ぶように売れたという。

サンリオ製品も前述したように小物グッズよりファッション系商材が売れることもあり、販売単価は日本の店舗よりも高かった。

具体的な販売実績については非公開とのことだが、関係者は「追加で商品を仕入れたことからも予想以上であったことは理解できると思う」と話した。

2022年のジェッダシーズンでは手探りだった市場での反応。しかし、それが確認できたことで商流を整えることができれば、よりリーズナブルな価格で多くの商品を流通させたり、中東市場に合った高付加価値の商材を開発するなど、事業としての洗練度を高めていくことができるはずだ。

アニメを通じて開いた市場への扉

アニメビレッジにはアニメ関連イベントやアニソンコンサート、アニソンを用いたDJイベントなどのステージエリアを中心に11のパビリオンが建設され、進撃の巨人、キャプテン翼、NARUTO、機動戦士ガンダム、パックマン、ゴジラなどのVRゲームや等身大フィギュアや巨大ジオラマが用意され、記念撮影スポットとしても行列が生まれていた。鬼滅の刃や呪術廻戦なども”ANIMAZE”と名付けられたパビリオンの中を通り抜ける間に、様々な展示を楽しめるようになっていた。

パックマンやゴジラのように”アニメ”だけではなく、日本コンテンツという括りでの拡大はあるものの、全11タイトルが集合。特定の制作会社などに依存せず、権利保有者の壁を超えてサウジで人気の作品が集まった形だ。

この仕掛けをセラから依頼されたのは、アジア地区で日本の音楽や文化をテーマにしたイベントを企画したり、日本のタレント、アーティストの海外進出、海外でのテレビ番組制作などを仕掛けてきたエイベックス・アジアが担当した。

同社は音楽と花火を融合したスペクタクルショー「スターアイランド」をアジア各国で実施。サウジアラビア・ジェッダでも興行を成功させたことが縁となって、セラからアニメビレッジの企画、建設、運営のサポートを依頼され、日本の各ステークホルダーとの橋渡し役になった。

アニメに限らず映像作品の海外展開には、どう品質を管理するかという問題がついてまわる。

ライセンスした先で、ライセンス元が意図した形で展示されるのか。ポスターや立て看板などの印刷物に関してどのように品質管理するのか。適切な値付けでビジネスが展開されているのか。さらにライセンス料などがきちんと支払われるかといった基本的な部分も含め、全く新しい国でのコンテンツ事業には不透明な要素が多い。

さらにサウジ政府がイスラム教巡礼者を除く個人観光客に対してビザを発給し始めたのは2019年。コロナの直前からと人的交流の歴史が極めて短い。サウジ側に日本コンテンツへのニーズがあっても、日本のコンテンツオーナーとのパイプは無に等しく、コンテンツオーナーもサウジでのビジネス実態が見えないという、実に特殊な状況だった。

そうした特殊な状況下にあってのアニメビレッジの成功が、中東地域ではもっとも豊かな国であるサウジでのビジネスの扉を開くことにつながることは間違いなさそうだ。音楽、アニメ、キャラクターグッズなどだけではなく、日本の製品や文化全体へのリスペクトにつながっている様子は、現地で何度も経験したからだ。

サウジでカルチャーとして根付く“日本スタイル”

サウジでこれほど日本スタイルのコンテンツが受け入れられている理由は、自分たちよりも発展している国に学ぼうと、日本文化にフォーカスして国全体を“改善”することをテーマにした情報番組「Thought(改善)」が人気を呼んだことに由来するという。

「Thought(改善)」

200エピソード以上が制作された番組内では、第二次世界大戦から経済大国へと発展した日本が、他の国とどのように違った文化を持っているのかを紹介していたという。その一部はYouTubeで閲覧できるが、”子供の頃から掃除当番をすることで共同作業や綺麗な環境を整えることの大切さを学ぶ”、”濡れた傘で施設内を汚さないよう傘袋を使う”、”電車やエレベーターの乗り降りは順番にルールを守る”など、日本人にとっては、ごくあたりまえの感覚で捉えているようなものばかりだ。

しかし、そこに同じく子供の頃から親しんでいた(サウジ国内の放映向けに販売されていた)日本の子供向けアニメで育った世代が国を動かすようになり、さらにはインターネット時代に国境をこえて最新アニメを視聴できる環境が整ってきたことなどもあり、日本スタイルの様々なカルチャーが、サウジ国内で自然に受け入れられる下地ができている。

その浸透度はアニメビレッジ建設を主導したセラの幹部・ライアン氏(前出)も予想以上だったと告白する。

「(お世辞ではなく)シティウォークの中でアニメビレッジは間違いなくナンバーワンの人気エリアでした。我々は世界中から本物のエンターテインメントを集めています。アニメも”本物”である必要がありました。そしてグローバルから集めた多様なエンターテインメントの中で、アニメは単に日本カルチャーが好きという人たちだけでなく、ファミリー層も含めて幅広い人たちに受け入れられたのです(ライアン氏)」

特にライアン氏が感銘を受けたのが、SNSで呼びかけただけで多くの人が集まったコスプレイヤーたちが、連日、アニメビレッジを訪れてくれたこと。それにアニソンのコンサートでは、集まった人たちのほとんどが、日本語でサビを大合唱し始めたことだったという。

社会全体として“アニメ”というスタイルが受け入れられていることは、日本のアニメーション制作会社と提携して、現地制作でアラビア文化を反映させた新作アニメを作り始めていることからも類推できるのではないだろうか。

海外でのアニメコンテンツは、子供の頃のキッズアニメの記憶を大人になってからも楽しむ層に向けた商材が多く、あくまで”サブカルチャー”として一部の層に受け入れられているケースが多かった。

しかしサウジでの捉えられ方は明らかに違う。サブカルチャーではなく、誰もが自然に受け入れている表現手法として”アニメ”や日本の音楽がある。

常設テーマパークが実現するとしても、まだ長い時間がかかるだろう。しかし幸いなことに、巨大シーズンイベントは年に2回、スクラップ&ビルドで構築される。その中で展示内容も洗練され、出展タイトルも増えていくだろう。


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