
[ワシントン 28日 ロイター BREAKINGVIEWS] – マーク・ザッカーバーグ氏は、自社の名前をフェイスブックからメタ・プラットフォームズに変えるほどメタバースに入れ込んでいる。「ディセントラランド」など、次にブレイクしそうなメタバースプラットフォームも産声を上げている。投機家であれば、メタバースで不動産などに投資してもうけることもできる。
しかし、このメタバースとは「現実的」なビジネスなのか。そうだとすれば、ユーザーと投資家に何をもたらしてくれるのだろうか。
<メタバースとは何か>
メタバースの概念は昼夜無休の共有デジタル環境だ。現実感を増すために拡張現実(AR)や仮想現実(VR)を利用したものもある。メタバースはいくつも存在し得る。エピック・ゲームズ社の「フォートナイト」やゲーム開発企業ロブロックスの作品など、一部のビデオゲームはこうした仮想空間を既に生み出したと言ってよく、ユーザーはそこに入りびたり、おしゃべりし、歩き回っている。
新型コロナウイルスの感染拡大によって対面よりもオンライン上の交流が増えたことで、メタバースは流行の最先端に躍り出た。一方、VRヘッドセットや高性能半導体などの技術進歩により、メタバースの実用化は夢物語ではなくなった。
最近生まれたメタバースはゲームの範ちゅうを越え、買い物やコンサート鑑賞といった日常の活動が行われる場所を再現するようになっている。例えばディセントラランドは大都市圏を模したウェブプラットフォームであり、商業地区やオフィス、イベントなどの空間を備えている。昨年10月にここで開かれた音楽フェスティバルには約5万人の「仮想ファン」が参加した。
<メタバースの潜在力>
メタバースはゆくゆく、ソーシャルメディアやオンラインショッピングなどの気晴らしを、今より没入感を伴って提供するようになると考えられる。ビデオゲームを別にすると、現在あるメタバースの大半は参加者が限られた層に偏っている。これはコンテンツ制作がまだ初期段階にあることが理由だ。また、これらの大半はゲームではないにもかかわらず、ゲームのような感じがする。ユーザーがアバター(分身)を利用することや、ゲーム的なグラフィックスに原因がある。
しかし、潜在力は大きい。メタバースにはアクセスや移動、公衆衛生上の制約がないため、特定の活動の入手可能性を広げることができる。昨年9月、ラッパーのスヌープ・ドッグさんはメタバースプラットフォームのサンドボックスと組み、「スヌープバース」を生み出した。この世界には彼が実際に所有する邸宅の仮想バージョンもあり、そこでパーティーやコンサートが開ける。サンドボックスの大株主、アニモカ・ブランズ氏は1月18日に富豪のウィンクルボス兄弟やソロス・ファンド・マネジメントから合計3億5900万ドルを調達した。
こうしたプラットフォームの多くは分権的なモデルを採用し、運営や収入分配の方法について参加者の投票を認めている。例えばディセントラランドでは、社会の構成員が土地入札やマーケットプレースの手数料、開発者への報酬などについて提案や進言をすることができる。
こうした体系は、広義の「ウェブ3.0」と相性が良い。ウェブ3.0はインターネットの最新版であり、メタ・プラットフォームズやグーグルの親会社アルファベットといった巨大企業が支配する「2.0」モデルと異なり、権力が分散している。
<仮想空間内でどう金を儲け、消費するのか>
ユーザーがもうけたり損したりする仕組みは、現実世界と似通っている。不動産であれ、広告であれ、売買であれ、仮想イベント参加者への課金であれ、それは同じだ。
デジタル不動産の特徴の1つは、理論上、供給にほぼ制約がないことだ。これは投資にとって良いことではない。しかしディセントラランドなどは仮想空間の供給量に制約を設けているため、ショッピングセンターなど特定のエリアには需要が集まる。カナダのトークンズ・ドット・コムは昨年11月、ディセントラランドのファッション地区の土地を240万ドルで取得した。
各ブランドはメタバース内で顧客を獲得しようとするだろうから、広告ビジネスも狙い目だ。トークンズ・ドット・コムはデジタルな大家となってスポーツ用品大手ナイキなどの企業に広告料を課したり、仮想店舗を貸し出したりする計画を立てている。ディセントラランドでは、韓国サムスン電子が期間限定の店舗を開設し、競売大手サザビーズは昨年6月にデジタルアートを展示する仮想ギャラリーを設けた。
ユーザーもメタバースの成長と商売に参加できる。ロブロックスのユーザーはミニゲームをデザインして他のプレーヤーに売ることが可能。代金は暗号資産「ロバックス」で入ってくるが、これは現実世界の通貨に交換することができる。この他、ユーザーが「非代替性トークン(NFT)」の形で芸術作品や洋服を作り、他のユーザーに売ることができるプラットフォームも多い。
<取引の決済>
暗号資産はしばしば唯一の決済手段であり、多くのプラットフォームが独自の暗号資産を備えている。例えばディセントラランドで不動産を買うには暗号資産「マナ」で支払う必要がある。マナの価値は、ディセントラランドの人気に左右される部分がある。
高額の取引もある。昨年12月、デジタル世界でスヌープ・ドッグさんの「隣人」になるためにあるユーザーが払った額は約45万ドル。また彼のメタバースへの早期アクセス権の価格は今月下旬、1枚1600ドル前後に上昇した。
<リスクは何か>
もちろん検討すべきリスクは山ほどある。第一に、プラットフォームとその不動産、独自の暗号資産の価値は人気次第で変動する。異なるメタバースは通常、相互運用が不可能なため、始動後に失速して関連資産の価値が下がることもある。メタバース同士の競争が激化すれば、フェイスブック型のネットワーク効果が再び物を言うかもしれない。
約20年前に登場した仮想世界、「セカンドライフ」が良い教訓だ。2007年に月間アクティブユーザーが100万人を超えたが、その後力を失った。問題の1つは、セカンドライフを使う際の「学習曲線」にあった。もう1つはモバイル版の開発に苦戦したことだ。今日の新興企業にも同様の壁がある。ディセントラランドにはモバイル版もあるが、この世界の中で移動するためのこつをかむには、しばらく時間を要するかもしれない。
多くのメタバースの特徴である分権的なガバナンス(統治)も、欠点になりかねない。すべてのユーザーを満足させられない意思決定が行われる可能性があるからだ。当然のことながら、デジタルのプラットフォームや資産はハッカー攻撃にも弱い。個々の暗号資産もそうだ。セキュリティーが破られれば、仮想世界の命綱であるデータ、そしてユーザーの資金がリスクにさらされる。
最も容易に想像できるのは、メタバースを通じたビジネスの進化かもしれない。ばらばらの場所にいる従業員がチームで働く場合、デジタル会議が役立つのは間違いない。その他の人々にとって、メタバースの将来とは時折尋ねてみる場所、あるいはVRヘッドセット中毒かもしれない。確かなのは、企業がVRの世界で消費者を追いかけ回すのに伴い、現実世界の資産価格は上下を繰り返すだろうということだ。
●背景となるニュース
*サムスン電子は6日、ディセントラランド内に期間限定の仮想店舗を開設すると発表した。ニューヨーク市にある現実の旗艦店を模したものになる。
*メタバースプラットフォームのサンドボックスは12月23日、大手会計事務所プライスウォーターハウスクーパース(PwC)の香港事務所が仮想の敷地を取得したと発表した。PwCの幹部は、メタバースに関心のある顧客に対する助言業務の一環だと説明した。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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